殊勲のアシストを帳消しに
殊勲のアシストを見せた久保建英は試合を台無しにしかけた。後半アディショナルタイムに2枚目のイエローカードをもらって退場。ビジャレアルは残り時間を10人で凌いで事なきを得たが、同点に追いつかれていれば、久保が戦犯と言われても仕方なかっただろう。
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勝ち越しの5分後、ロングボールを処理しようとして上げた足が、ホセ・ルイス・ガヤの顔面に入ってしまった。難しい体勢での対応になったが、身体の向きを考えても間接視野でガヤの存在を認識することが十分に可能だっただけに、少し不用意なプレーだったことは否めない。
マッチアップするサイドバックのガヤに対し、DFラインに吸収されてまでついていくのはチームとしての戦略だった。久保の献身的なディフェンスにウナイ・エメリ監督は満足していたが、「もっと守備に取り組まなければいけない」とも言っている。
1点を追うバレンシアは最後の力をふり絞ってボールを奪いに来た。ビジャレアルはボールを回して時間を消費するが、後半アディショナルタイムに状況が一変した。久保のボールタッチが大きくなったところを詰めたカルロス・ソレールが久保と衝突。ボール自体に先に触ったのは久保だったが、伸ばした足がソレールの太ももに入ってしまった。
タッチが大きくなってしまったところでボールを失いたくない一心だったのかもしれない。しかし、足裏を見せてしまったのでイエローカードの判定は妥当だ。ただ、警告を受けていることを考えれば、2枚目となったプレーは避けるべきだった。
久保建英が抱える問題
データサイト『Whoscored.com』によれば、90分換算で不成功のタッチ数とボールロスト数で久保はチームワーストとなっている。
前者は2番目に多いジェラール・モレノを倍以上も上回る7.8回、後者もライバルのチュクウェゼは0.8回なのに対して久保は3.3回。この試合で2枚目のイエローカードをもらったシーンも、ボールを失いかけたところで起きたファウルだった。
「私たちが重視するのは、個々が勝利に必要なものをチームに与えることだ」
指揮官は試合前にこう言葉を紡いでいる。リードした試合終盤のプレーが多いことを考えると、勝利に寄与しているとは言い難い数字だ。適切なプレーを選択できるのは久保の強みだったが、今季の久保はらしくない姿を時折垣間見せている。
ビジャレアルの2得点はともに右ウイングが起点となった。4-3-3のビジャレアルは右ウイングのサミュエル・チュクウェゼと左サイドバックのアルフォンソ・ペドラザが開き、DFとMFのライン間を左ウイングのモイ・ゴメスとインサイドハーフのマヌ・トリゲロスが浮遊していた。
4-4-2でゾーン指向が強かったバレンシアに対し、チュクウェゼの横へのドリブルは効果的だった。先制点の場面では右サイドからカットインすることで、相手の守備はマークを受け渡す際にギャップが生まれた。チュクウェゼの浮き球のパスは大外のペドラザに通り、ペドラザが倒されて得たPKをパコ・アルカセルが成功させている。
久保建英は「明らかに進歩している」
早い時間帯に先制することができたが、ビジャレアルはボールを保持しながらも、さほど多くの決定機を作ることができずにいた。サイドチェンジを多用して左右に揺さぶったが、4-4-2で守るバレンシアに中央を固められていた。
「エリア内でより効果的なパスやフィニッシュを見せてほしい」
バレンシアダービーを前にウナイ・エメリ監督は久保についてそう語ったが、久保はプレーで自身の価値を証明した。アタッキングサードでボールに絡み、テクニカルなタッチでゴールを演出。指揮官の要求に最高の形で応えた。
公式記録ではアシストがつかなかったものの、久保のプレーがビジャレアルを勝利へと導いたことに変わりはない。64分にサミュエル・チュクウェゼに代わって右ウイングに入ると、5分後に決勝点となるゴールが生まれる。左サイドのモイ・ゴメスから受けたパスをヒールで流すと、走り込んできたダニエル・パレホがミドルシュートを決めた。
左サイドはモイ・ゴメスとペドラザを中心に、パレホがそれをサポートする形だった。久保はチュクウェゼにはなかった左に流れる動きで数的優位を作った。2点目のシーンではバレンシアのダニエル・ヴァスがパレホと久保を見なければならず、味方に活かし活かされる理想的な状況が生まれていた。
指揮官は久保にファイナルサードでの貢献を求めている。そして、久保とそのライバルであるチュクウェゼは、それぞれの持ち味を活かし、成長の証を見せた。
「(久保に対する)私たちの要求は高いが、彼は優れたプレーヤーで、彼は明らかに進歩している」
今週からはUEFAヨーロッパリーグのグループステージが始まり、過密日程が続いていく。ジェラール・モレノを負傷で欠く中で、2人のレフティーが結果を残したことが持つ意味は大きい。
(文:加藤健一)
【了】
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