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CL史に残る全世界への裏切り行為。PSG対バシャクシェヒルが人種差別発言で順延…現場では一体何が? - フットボールチャンネル

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アシスタントコーチが猛抗議のワケ

ピエール・ウェボ
【写真:Getty Images】

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の歴史に泥を塗りかねない、前代未聞の事件が起きた。

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 現地8日に行われたグループステージ第6節のパリ・サンジェルマン(PSG)対イスタンブール・バシャクシェヒルが、前半14分で中断したまま再開せず、翌日に順延となったのである。

 原因は審判による人種差別発言だった。恥ずべき事態だ。

 これまでスタンドに詰めかけたファン・サポーターから人種差別の意味を含む野次を飛ばされ、プレーを拒否した選手たちならみたことがある。ところが今回は、本来ならそうした人種差別に「NO」を突きつけるべき存在が、愚かな言動で試合に水を差した。

 発端となったのは13分にPSGのDFプレスネル・キンペンベが深いタックルで相手選手を倒したプレーだった。これにバシャクシェヒルのアシスタントコーチを務めるピエール・ウェボ氏が激昂して抗議する。

 するとベンチのそばにいた第4審判から主審に無線で連絡が入り、オヴィディウ・ハツェガン主審はウェボ氏にレッドカードを提示した。ところが元カメルーン代表のアシスタントコーチの怒りは、すでに別の方向へ向かっていた。

 Why you said NEGRO?

 ウェボ氏はこの言葉を何度も繰り返し、第4審を務めるルーマニア人のセバスティアン・コレスク氏に激しく詰め寄った。口調に合わせて訳すと、「あんたはなぜ『Negro』と言ったんだ?」という意味になるだろうか。

 この「Negro」は、「黒人」のことを軽蔑的に呼ぶ際に使われる言葉として一般的に知られている。黒人同士で使うこともあるが、現代では人種差別的な意図が含まれる言葉として捉えられるもので、使用は厳に避けるべき単語なのだ。

 コレスク氏はハツェガン主審に、ウェボ氏へのレッドカードを促す際に「黒人」を表す言葉を使ったようだ。アシスタントコーチの激昂を目にして状況を把握すると、バシャクシェヒルの控え選手も飛び出してきた。

先頭に立ったデンバ・バ、真剣に向き合うエムバペ

デンバ・バ
【写真:Getty Images】

 最も激しくコレスク氏に詰め寄ったのは、かつてチェルシーなどでも活躍したベテランの元セネガル代表FWデンバ・バである。

「あんたが白人の男性について話す時、『This white guy(この白人の男)』とは絶対に言わないよな? 『This guy(この男)』と言うはずだ。……おい話を聞けよ! 何で黒人の男のことを頭に思い浮かべた時は『This black guy(この黒人の男)』と言うんだ?」

 この後、約10分間にわたって試合中断が続くと、「みんな来い。もう、うんざりだ。これがフットボールなんだな。俺たちはフットボールがしたいのに」と吐き捨てたデンバ・バに率いられたバシャクシェヒルの選手たちがロッカールームに引き揚げていった。それに連帯を示したPSGの選手たちも続き、全員がプレーを拒否する事態に発展する。主審も正式に試合の中断を宣言した。

 デンバ・バらが第4審に説明を求める際、PSGの選手たちも輪に加わり、キャプテンのマルキーニョスやネイマール、マルコ・ヴェッラッティ、キンペンベ、そしてキリアン・エムバペも熱心に話に耳を傾けていた。彼らが両腕を後ろに組んで暴力の意思を示さずに毅然とした態度をとり続けたことは、当然の行為とはいえ称賛されるべきだろう。

 騒動の原因を作った第4審のコレスク氏は「『Negro』の意味は『黒』だ。『黒』だよ。わかるよな? 『Black player(黒い選手)』…『Black player』だ。私はそういう意味で言ったんだ」と説明した。だが、これは「人種差別ではない」という意味の説明にはなっていない。「Negro」という言葉を使った時点で明確に「アウト」が突きつけられなければならないのである。

 中継映像では、PSGのチーム役員かUEFAの役員と思われる人物がコレスク氏に対して「我々はあなたを受け入れない。あなたのことは望まない。あなたはレイシストだ」と言い放つ場面も映っていた。

 その後、約20分間の中断が続いたタイミングで「試合は22時(現地時間)に再開される」というアナウンスがあった。中継映像にも字幕で表示されていて、一時はPSGの選手たちが再開前に用意された10分間のウォーミングアップのためにトンネルまで出てきていた。

バシャクシェヒルが再開拒否。トルコ政府も介入!?

パリ・サンジェルマン
【写真:Getty Images】

 しかし、試合は再開されることはなかった。

 フランスでCLを放映していた『RMCスポーツ』によれば、両チームがロッカルームへ下がった後にデンバ・バとPSGの主将マルキーニョスによる会談の場が持たれ、「全選手が手を取り合って再入場する」というプランで合意していたという。ところが、一部のバシャクシェヒルの選手が8日中のプレー再開を拒否したそうだ。

 UEFAも試合再開に向けて動いていた。規定では第4審不在でも試合再開が可能であったが、VAR担当だったイタリア人審判を代わりの第4審に据えることも検討されていたと現地メディアは伝えている。ただ、2人以上が必要なVARの担当者が足りなくなることも懸念され、実現には至らなかった。

 中断から1時間が経っても、一向に再開されず。ベンチの選手たち準備されていた防寒用のブランケットをPSGの用具担当が片付け始めたあたりで、誰もが「今日は再開されないな…」と察しただろう。

 同時キックオフだった同組の試合でマンチェスター・ユナイテッドのグループステージ敗退が決まった後の現地23時過ぎに、UEFAから正式に順延の発表があった。試合は現地9日の18時55分(日本時間10日2時55分)に、審判員を総入れ替えして中断になった13分の時点から再開される。新しい主審はオランダ人のダニー・マッケリー氏に、同じく第4審はポーランド人のバルトシュ・フランコフスキー氏に決まった。

 試合が中断している間に、この人種差別問題はトルコ政府にまで飛び火していた。

 トルコのスポーツ大臣を務めるメフメット・ムハーレム・カサポル氏は「人種差別は人類に対する犯罪だ! 我々はトルコを代表するバシャクシェヒルと共にある」とツイッターに投稿。さらにレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領まで非難の言葉をツイートした。

「バシャクシェヒルのテクニカルスタッフであるピエール・ウェボ氏に対する人種差別発言を強く非難し、UEFAが必要な措置を講じると確信している。我々はスポーツにおける人種差別や、あらゆる分野における差別に無条件に反対する」

人種差別に明確な「NO」を

パリ・サンジェルマン
【写真:Getty Images】

 騒動の中心となったウェボ氏は、『RMCスポーツ』のコメンテーターとして出演していた元イタリア代表のフェデリコ・バルザレッティ氏に「あの審判はファウルに抗議した後の私に『Negro』と言ってきた」とテキストメッセージを送ってきたそうだ。

 使った言葉が「Negro」だろうが「Black guy」だろうが関係ない。人物を特定する際に、肌の色を指す単語を用いるのはご法度だ。現代の基準では「区別」ではなく「差別」にあたると、明確になっている。

 現場にいたエムバペやキンペンベらも、ウェボ氏やデンバ・バに連帯を示す人種差別反対のメッセージをSNSに投稿している。UEFAも本件について徹底的に調査を進める方針を示した。

 フランスの青年・スポーツ大臣を務めるロクサナ・マラシネアヌ氏も「選手たちは今夜、受け入れがたい事態に直面して歴史的な決断を下した。あれは一般的な人種差別の表現だ。我々は調査結果を待っているが、私が言えるのは彼らの行動や連帯が力強い象徴として敬意を表すということだけだ」とツイートし、人種差別に真っ向から対抗した両チームの選手たちを称えた。

 PSGもプレスリリースの中で事の経緯を説明しつつ、「あらゆる形態の人種差別はPSG、その会長、スタッフ、選手たちの価値観に反する」とコレスク氏の言動を非難した。

 アメリカから広まった『Black Lives Matter』の運動にサッカー界全体が賛同し、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える機運が高まっていたタイミングでの、今回の事件である。

 地球上から人種差別を完全に消し去ることは極めて難しいのかもしれないが、それでも「差別をなくそう」と行動していたはずの側から差別が起こってしまった。コレスク氏の言動は世界に対する裏切りと言う他ない。

 PSGとバシャクシェヒルの選手たちは正しい行動をしたし、試合中断を決めたハツェガン主審の判断も適切だっただろう。明日、試合が無事に再開され、両チームがピッチ上でのプレーに集中して最高のゲームを披露してくれることを信じたい。それがサッカー界に人種差別の居場所がないことを示す、最も効果的なカウンターとなるはずだ。

(文:舩木渉)

【了】

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