年が明けて、今年七回忌を迎えるのが俳優の宇津井健だ。82歳で逝ったその日に再婚したことで巷を騒がせたが、あの問題は一体どうなってしまったのだろう。“新婦”と彼の一人息子との間で勃発した、遺産相続の後始末である。
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2014年3月14日、慢性呼吸不全に陥り死の床にいた宇津井は、息を引き取る5時間前に入籍を果たす。
彼にはテレビ局に勤務する一人息子がいたが、名古屋での葬儀は、喪主を“新婦”が務めた。彼女の名前は宇津井文恵さん(85)=旧姓・加瀬=。かつて名古屋では「夜の商工会議所」と呼ばれ、政財界の大物たちが足繁く通った高級クラブ「なつめ」の名物ママだ。
長年連れ添った妻を病で亡くした宇津井は、最晩年を名古屋にある文恵さんの自宅で過ごし、半ば同棲状態にあったとされる。亡くなる数年前からは肺気腫が悪化し、これまで看病してくれた彼女への感謝を込めて、婚姻届に判を押して入籍を懇願したという。
死後になって明らかになった美しい物語に、世間は名優の人柄を偲んだものだが、それが一転、泥沼のバトルへと展開するのに時間はかからなかった。
芸能担当記者が解説する。
「遺言状がなかったことで、遺産を巡って未亡人と一人息子の間で争いが起こったのです。健さんは、00年に東京・目黒区内に息子家族と同居するための二世帯住宅を建てました。敷地は約160平方メートル、3階建ての上物の床面積は約250平方メートルの豪邸ですが、その約8割が健さんの所有分。実勢相場2億円を超える物件ですが、民法上は、その半分を妻が相続できる形です」
「ノーサイド」
「なつめ」の経営が傾いているという噂もあったため、周囲からは“結婚は財産目当てだったのでは”などと訝(いぶか)しむ声が噴出。ホテルオークラ(東京)で開かれたお別れの会を境に、争いは決定的なものになってしまう。
きっかけは、息子が作成した案内状だった。そこに未亡人の名前が記載されなかったことで“面子を潰された”と激怒した彼女は、名古屋に新たな墓を建立し遺骨を納めてしまったのだ。
そう報じられもしたが、あれから歳月が経ち宇津井家の面々はどうなったのか。
「遺産問題は、とうの昔に解決していますよ」
と明かすのは、当の未亡人である文恵さんだ。
「最初から遺産を貰うつもりはなかったので、健が亡くなり1年も経たないぐらいで、放棄することを(息子側に)伝えました。確かに、お別れの会の案内状には、お願いしたのに私の名前が書かれなかった。無視されて怒ったことはあるけれど、私は揉めるのがキライだから、あれからすぐに辞退したんですよ」
遺骨の行方についてはこうも言う。
「一度は全部引き取りましたが、2年ほど前に申し出があって取りに来られたので分骨しました。それ以来、彼とは連絡をとっていませんし、付き合いもない。息子には違いないわけだけど、こちらからごちゃごちゃ言えば可哀そうだし……」
もう一方の当事者である宇津井のご子息に訊くと、
「遺産も放棄され、お骨は分骨して貰いました。ここに至るまでのことは詳しく申し上げませんが、いろいろありました。互いに言いたいこともあるでしょうが、彼女の主張の真偽も含めて、私から特に申し上げることはありません。すべては済んだことであり、もはやノーサイドです」
女の意地で宇津井との純愛を証明してみせた未亡人。手元に遺ったのは、夫婦の歩みが記録された数々のツーショット写真だという。
「週刊新潮」2020年1月16日号 掲載
新潮社
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