新たに立ち上がったレーベルSnafuは、テクノロジーの助けを借りたアーティスト探しに力を入れている。アンキット・デサイCEOは、「21世紀の最新テクノロジーを導入しても、運用する組織自体が20世紀の機械のように時代遅れだと感じることが時々ありました」と語る。「ヒットの法則」に基づいたタレント発掘は果たして強力なのか?
野心溢れるアーティストであれば、成功できる確率は百万にひとつも無いことを心得ている。しかし新たに立ち上がったSnafu Recordsが軌道に乗れば、成功の確率は15万分の1にまで上昇するだろう。同レーベルでは、新たなアーティストを発掘するために毎週膨大な数の楽曲を選別している。と言ってもタレント発掘の担当者が人海戦術で一生懸命に作業している訳ではない。彼らにはAIを利用したアルゴリズムという強い味方が付いているのだ。
Snafuの頼りは、いわゆるAIによる音楽の発掘作業だ。次のビッグヒットを求めて業界中を隈なく探し回る役割をA&R担当のスカウトたちだけに任せるのでなく、特定のソフトウェアを利用してより効率的にタレントを発掘しようとしているのだ。
Snafuのアルゴリズムは、新たにリリースされた未知の楽曲を週に15万曲のペースでふるいに掛け、わずか4人のA&Rチームが注目すべき15〜20曲にまで絞り込んでいる。アルゴリズムは、楽曲の成長度合い、YouTube動画への肯定的なコメント等によるファンの注目度、他のヒット作品との類似性などを基準に注目曲を選択している。(選ばれる楽曲は、Spotifyのトップ200にランクインしている平均的な楽曲と70〜75%の類似性が認められる必要がある。ユニークさは必要だが、「ヒット曲の法則」に従った楽曲でなければならない、とSnafuのCEOアンキット・デサイは言う。)
AIを導入した同レーベルはスピードも重視し、注目すべき楽曲がリリースされてから通常2〜9日以内にチームへ通知される。従来のやり方ではレーベルのレーダーに掛かるまでに4〜6週間かかるとSnafuでは見積もっているが、それに比べると画期的なスピードアップだ。楽曲はレーベルの影響の及ばないところで広まることが多いため、一夜にしてヒットするアーティストを巡ってレーベル同士の争いになる。Snafuによれば、ヒットする可能性のある楽曲に早くアクセスできるほど、つまりTikTokなどで話題になる前に曲を耳にすることができれば、ヒット性の高い楽曲の発掘はより容易になるのだ。
分析手法やデータを活用してアーティストを発掘しているレーベルは、Snafuだけではない。Warner Music Groupは、2018年にSodatoneという同様のアルゴリズムを搭載したA&Rツールを手に入れた。また、今ではほとんどのA&R担当スカウトがさまざまな分析手法を駆使して、ShazamやSpotifyから次に来そうなアーティストを物色している。Snafuの幹部曰く、メジャーどころはテクノロジーをさまざまなツールのひとつとして使用しているに過ぎないのに対し、Snafuの場合は企業としてのDNAにAIが深く浸透しているという。
最新のデータ分析手法を導入しようとするレーベルについてデサイは、「せっかく21世紀の最新テクノロジーを導入しても、運用する組織自体が20世紀の機械のように時代遅れだと感じることが時々ありました」と言う。彼は、Universal Music GroupやCapitol Recordsでデータ分析を担当した経験を持つ。「導入した時はこれぞ未来のテクノロジーだと実感し、前進しようと努力しているのでしょうが、どんな大企業でも変革期に必ず経験する問題に直面しているのだと思います。その点テクノロジーを中心に据えたSnafuは、他の企業よりも早く問題を解決できるでしょう」。
2018年から活動開始したSnafuは、16組のアーティストと契約している。最近ではコスタリカのエレクトロポップ・シンガーソングライターのMishcattと契約するなど、急速な成長を遂げている。Mishcattは、Spotifyの再生回数がわずか数ヶ月の間に数万回に達する注目のアーティストだ。しかしSnafuとしては、自らが推進するデータ重視のアプローチが本当に有効かどうかを証明するために、さらなるヒットを飛ばす必要がある。
音楽業界をはじめ伝統的に変化を嫌う業界では、テクノロジーへの過度の依存に対する反発があるだろう。楽曲がどのようなファン層に受けるかをボット(自動プログラム)に判断させるやり方に懐疑的な人たちは多い。しかしSnafuの立ち上げ以前にも業界内の懐疑的な声を耳にしてきたデサイは、テクノロジーに対する批判を危険視している。「A&Rを不可侵のブラックボックス化し、データ分析を持ち込むことで本来持つマジックを奪ってしまうのではないか」という批判の声もあった、と彼は言う。「しかし私たちの見方は違っていました。人々が聴くべき楽曲を私たちが決めることができるでしょうか? 結局、数字やデータが示すのは、実際にどれだけ売れたかという結果なのです」。
ローリングストーン誌が取材した中には、テクノロジーを利用したアーティスト発掘のプロセスを有用なツールとして、概ね肯定的な意見を持つA&R担当者も少しはいた。ところが『Old Town Road』のような楽曲が登場し、全てが変わった。各レーベルは口コミによるアプローチをますます無視できなくなってきている。RCAでA&R部門のディレクターを務めるカール・フリッカー曰く、多くのレーベルが『Old Town Road』の成功プロセスを逆行分析し、大ヒットを生み出すためのヒントを得ようとしているという。
フリッカーは『Old Town Road』のリル・ナズ・Xについて、「文字通り無名の状態からナンバー1ソングの大ヒットメーカーにまで上り詰めた大変革」と評している。「しかしヒットを予想できたはずの予測方法を使った訳でもなく、つまりアルゴリズムでヒットしたのではありません」と指摘する。それでも各レーベルは、Snafuのように実験的なスタートアップに注目し続けている。「決して無視はできません」と彼は言う。「データは市場の動きを反映したものであり、押さえておくべき重要項目のひとつです。さらに直感力を強化してくれます。誰でも一般大衆の動きを把握したいと思うでしょう。ティーンエイジャーが今何を感じているかを把握し、彼らの好みを言い当てることなどできるでしょうか? テクノロジーはその部分を補ってくれるのです」。
「データは市場の動きを反映したもの」ーーカール・フリッカー(A&Rディレクター/RCA)
Arista RecordsでA&Rリサーチ部門の副責任者を務めるライアン・ファウスは、Snafuのコンセプトは業界にとって良い刺激になると見ている。スカウトたちが新たな素材を発掘するためにチェックするコンテンツが急増しているからだ。「次のスーパースターやヒット曲を見出すために我々が認知すべき音楽の量は、いつも一定ではありません。そこでテクノロジーが、大量のコンテンツをふるいに掛けるための有用なツールになってくれると思います」と彼は言う。「結局のところ、一般的にも業界でも、新しいアーティストやヒット曲の発掘にコンピューターやAIを使用することに対する信頼度がまだまだ低いのです。私個人としては、データ利用との組み合わせが素晴らしい結果を生むと思います。ただし、楽曲やアーティストの将来的な可能性を判断するにあたり、A&R担当者の耳に敵うものはないと信じています」。
ファウス曰く、4〜5年前ならテクノロジーに対する全面的な依存には批判もあっただろうが、現在の各レーベルは膨大な数の新曲をふるいにかけて競争を勝ち抜くための新たなツールの必要性を認識しているという。「読みと解釈と情報の扱い方、特にタレントの見極め方という意味で、音楽業界はここ数年で急激に進化しました。しかしタレント発掘のプロセスにおいて、まだ進化できる余地はあると思います」とファウスは言う。「市場で起きていることをできる限り把握するためのツールやメソッドの開発に関して、レーベルとディストリビューターが激しく争っています。これからもますます競争が激しくなるでしょう」。
「数年前までは、商談を始めてから成立するまでに数ヶ月かかったものです」とAtlantic RecordsのA&R担当副責任者であるヤーシエル・”サクセス”・デイビスは言う。「今は消費量がかなり多いため、もっとスピードアップしています。だからこそテクノロジー企業の存在感が大きくなってきたのです」。
Snafuは、一般的なレーベルよりも積極的にAIとデータ分析を採用しようとしている。しかしニッキー・ミナージュやワン・ダイレクションらのヒット曲も手がけた同社のクリエイティブ・ディレクター兼ソングライター兼プロデューサーのカール・フォークは、タレントスカウトの役割を完全にアルゴリズムに置き換えるつもりはない、と強く否定した。
「数字だけに注目するのは、大きな誤りです」と言うフォークは、アルゴリズムをA&R担当チームの第三の目に例えた。「アルゴリズムはあくまでも新たな音楽を発掘するための補助ツールであり、音楽自体をどうこうするものではないと見ることが重要です。私たちに聴き分ける力がなければ、目も狂うでしょう。私たちはアルゴリズムに”これはヒットする”と断言させるような使い方をしていません。私たちはアルゴリズムの絶妙な使い方ができていると信じています。一方でアルゴリズムは、次のヒットを予見するための市場動向のデータを素早く提示してくれます。今やそれこそがとても重要なのです」。
本記事は「Rolling Stone Japan」から提供を受けております。著作権は提供各社に帰属します。
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February 24, 2020 at 10:30AM
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