寝言からバレた
都内に暮らす専業主婦の田中亜紗未さん（仮名、以下同。27歳）が、夫である田中真さん（29歳）の異変に気づいたのは、彼の寝言がきっかけでした。「しおり…」そう確かにつぶやいた真さんの寝顔を見る亜紗未さんは、いったいどんな表情だったことでしょうか。なにしろ、真さんが眠りにつく直前まで、亜紗未さんと真さんは夫婦としての営みを持っていたのですから。
二人の間に生まれた長女明日香ちゃんはまだ2歳です。亜紗未さんは真さんが浮気しているかも、という疑念を持っていましたが、そのことを突き止めたとしても自分と明日香ちゃんの二人で生きていく自信はなく、そのため、事実を探求することに躊躇しました。しかし真さんは、寝言を言った翌日も、亜紗未さんを求めました。その翌日も、そしてその翌日も。
〔PHOTO〕iStock
もともと真さんはそちらには貪欲なほうで、逆に亜紗未さんは淡泊だったため、体力が追いつかずに断っていた日もありましたが、例の寝言以降、亜紗未さんは真さんの求めには無理にでも応じようと努力しました。しかし、そのことにより体調にしわ寄せが行ってしまいます。
また、こんなにも自分を求める真さんがどうして「しおり…」と呟いたのか、疑問がさらにさらに大きく大きくなっていきました。
亜紗未さんはある日の夜、真さんがいつものように亜紗未さんを求め、そしてその後スヤスヤと眠りについた後、真さんの指紋で彼のスマートフォンを解除しました。すぐ目についたのは、LINEに届いている未読メッセージの多さでした。LINEの「トーク」一覧で一番上に詩織という名前があり、未読メッセージが5件となっていました。これこそが真さんが呟いていた相手であることはすぐ分かりました。
動画に映っていたもの
亜紗未さんはLINEメッセージを既読にしてしまってはさすがにバレてしまうと思い、その日はLINEには手を付けず、写真や動画を保存しているアプリを立ち上げてみました。するとそこには…暗がりで撮ったと思われるたくさんの動画が保存されていました。
この時点で嫌な予感が当たったと思った亜紗未さんでしたが、もう手は勝手に動きます。音を小さく絞り、そして動画を再生。それは、亜紗未さんの知らない女性が全裸になっている姿でした。撮影者は真さんらしく、時々真さんの体も映り込んでいました。真さんは、その女性との情事を動画に撮影してスマホの中に保存していたのです。女性は時折カメラに目線を向けていましたので、隠し撮りではなく、撮影されていることを自覚しているようです。
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今でこそ専業主婦の亜紗未さんですが、以前は派遣でシステム会社に勤務していたこともあります。自分のパソコンと真さんのスマホをケーブルでつなぎ、慣れた手つきでそれら動画を全てパソコンにコピーしました。
この日から、折を見ては亜紗未さんは、真さんのスマホを覗き見て、LINEの中身を覗けるタイミングを探しました。詩織からの未読がたまっていないタイミングこそがチャンスです。数日後、詩織からの未読がなかったので、まずスマホを機内モードにし（読んでいる間にメッセージが入ってきてうっかり既読にならないように、です）、そして詩織とのLINEを開いてみました。
翌週、亜紗未さんは法律事務所を訪れました。真さんが撮影した動画と、詩織とのLINEのスクショ、そして詩織の名前で登録されている携帯電話番号のスクショをUSBメモリに入れて。LINEのやりとりから、真さんのスマホで撮影されていた女性こそが詩織であることが分かりました。
亜紗未さんの心は決まっていました。真さんとは、離婚しない。真さんは詩織と情事をもった日も、帰宅して亜紗未さんを求めていました。亜紗未さんは、真さんが単に欲求を抑えきれないタイプなのだと思ったのです。そしてそうであるなら、年齢を重ねると共にそのような欲求は人並みに落ち着いてくれるのではないか、と期待していたのでした。
詩織との対峙
亜紗未さんの希望を聞いた弁護士は、詩織の携帯電話番号から、住所、氏名を割り出しました。彼女は真さんの職場の後輩で、24歳でした。そして、内容証明郵便で詩織を呼び出し、話をしました。目的は、慰謝料を払わせること、そして真との関係を断ち切らせることです。
通知が届き、詩織さんは真さんに通知内容を見せたのでしょう。通知が届いた頃、真さんは、普段より少し元気を失っていました。しかし、通知についても詩織さんについても、真さんは一言も口にしようとしませんでしたので、亜紗未さんも詩織さんについて、真さんには話さず、普段どおりの生活を心掛けました。
詩織さんは指定された日に法律事務所にやって来ました。
「奥様には大変申し訳ないことをしました。いけないことだと思いながらも、誘われるとつい、それに応じてしまっていました。しかし、このように弁護士先生に呼び出され、目が覚めました。私はこのように、真さんとの関係がほかの方の知るところとなり、彼との関係が終わることを心のどこかで望んでいたのかもしれません。本当に申し訳ありませんでした。奥様に、どうぞよろしくお伝えいただけませんでしょうか」
あまりに礼儀正しく、そして時折涙ぐむ詩織さんを見て、弁護士は、詩織さんは真さんとの関係を断ち切ることができそうだと思いました。そして、亜紗未さんと相談の上、慰謝料の金額は、今回は多くを求めないけれど、真さんとの関係を断ち切れず再び会うようなことがあったら、そのときは多額の慰謝料を支払ってもらう、という誓約書を詩織さんに書かせることとしました。
次に弁護士に呼び出されたときも、詩織さんは、他の予定をキャンセルしてでも伺いますと言い、実際、すぐ事務所を訪れ、弁護士が求めたとおりの誓約書にサインをし、そして亜紗未さんに慰謝料を払いました。
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詩織さんは最初に法律事務所に来た際に、弁護士の目の前で、真さんとのLINEを消去しましたし、絶対に真さんに連絡は取らないと誓いました。家での真さんの様子も、徐々に元気を取り戻し、以前同様、真さんは毎日のように亜紗未さんを求めました。これで真さんと詩織さんの関係が断ち切れれば、家庭は安定するはずでした。
堂々と嘘をついてきた
亜紗未さんに慰謝料が支払われてから1ヶ月もしない頃です。弁護士は、亜紗未さんから再び連絡を受け、ビックリしました。真さんは、まだ詩織さんと会っている。以前と同じ頻度で会い、同じように動画を撮っているというのです。
亜紗未さんは悩みました。弁護士から詩織さんの様子を聞いて、彼女は本当に反省してくれていると思いました。しかし真さんとの関係が復活しているどころか、そもそも切れていないという事実を知るに至り、「真さんとは離婚しない」と決めていた自分の以前の決心が間違っていたのではないかと悩みました。
こんなに堂々と嘘をつける詩織さんに空恐ろしいものも感じました。礼儀正しい仮面の奥に恐ろしい一面を持っているかもしれない詩織さんと、そんな詩織さんと情事を重ねる真さん、この二人とはもう二度と接触したくないと思うに至りました。
亜紗未さんは再び法律事務所を訪れ、詩織さんへの慰謝料請求事件、そして真さんへの離婚請求事件を依頼しました。弁護士は、以前の誓約書どおりの多額の慰謝料を、真さんと詩織さんの連名で支払うことや、まだ弱冠2歳の長女明日香ちゃんが22歳になるまでの養育費の支払い、私学に進学した場合の学費を全額真さんが負担することなどを盛り込んだ協議離婚書を作成し、真さんと詩織さんにサインさせました。
後日、弁護士は亜紗未さんから再び連絡を受けました。亜紗未さんは無事、真さんと離婚をし、明日香ちゃんを保育園に預けて派遣会社に登録、派遣された先で、少し年上の方と出会い、今度結婚することになりました、との報告でした。そして、その報告に、こんなことも言い添えられていました。
「元夫との共通の知人から聞いた話なのですけど。私が離婚した後、元夫は詩織とはすぐ別れたそうです。詩織は元夫に未練があったようですが、元夫のほうが詩織に飽きてしまったみたいで。二人とも本当にゲスですよね」
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November 05, 2020 at 04:00AM
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