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海外アーティスト全員が予定通り集合!──コロナ禍にこそ示唆的な「アルマゲドンの夢」 - GQ JAPAN

「14日間の隔離も負担ではなかった」

音楽や舞台芸術にとっては、相変わらず厳しい状況が続いている。アメリカの劇場はしばらく前からすべて閉鎖されている。一方、ヨーロッパではオペラなどの上演も少しずつ再開されていたが、10月下旬以降、新型コロナウイルスの感染再拡大で、ほとんどの劇場がふたたび閉められてしまった。スペインはほぼ全土に非常事態宣言が出され、フランスは全国一律で外出が制限され、ドイツはレストランなどの営業が停止され、劇場も閉鎖された。イギリスでも外出が厳しく制限され、イタリアも劇場が閉まり、飲食店の営業は午後6時までになった。これがいまのヨーロッパである。

稽古の様子

© M.Terashi

そんななか東京の新国立劇場に、世界の劇場関係者の目が釘づけになっている。11月15日から上演される新作オペラ「アルマゲドンの夢」のために、予定されていた海外からのアーティストがすべて集まり、リハーサルが行われているからだ。そんなことは3月の終わりに海外からの入国が制限されて以来、しばらく絶えていたのは言うまでもない。

10月1日からの「段階的緩和」で、ヨーロッパをふくむ全世界から中長期滞在の外国人が入国することが認められたが、入国後の14日間の待機が必須だから、たいていのアーティストは二の足を踏む。しかし、「アルマゲドンの夢」のためには、作曲したロンドン在住の国際的作曲家、藤倉大はもちろん、アメリカ生まれの女流演出家、リディア・シュタイナーを中心とする演出チームも、アメリカやオーストラリア出身の主役歌手たち3人も、全員が2週間の隔離(加えて帰国後の2週間の隔離)を受け入れて来日したのである。

よほどのことと思われるが、なにが「よほど」だったのか、演出家シュタイナーの来日後の発言にヒントがある。「なによりも新国立劇場と芸術監督の大野和士氏が、国際的な往来が困難な状況下でも『なんとかして予定通りに世界初演を実施する』と決断した強い意志が私を動かした」「世界中で劇場が閉鎖に追い込まれているパンデミックのなか、新作の世界初演というクリエイティブな仕事ができること自体が奇跡で、そのためなら14日間の隔離はなんら負担ではなかった」。加えれば「テーマを考えれば、絶対にパンデミックのいま、やりたかった」という。

指揮者の大野和士

映し出されるいまの世の中

新国立劇場から委嘱されて藤倉大が作曲した「アルマゲドンの夢」は、SFの祖として知られる英国の作家、H.G.ウェルズの同名の短編が原作。藤倉は1901年に書かれたこの作品にポピュリズムが席巻する今日の状況を重ね見て、オペラの題材に選んだという。

通勤電車のなかで若い税理士フォートムは見知らぬ男に話しかけられる。その男クーパーが語るのは夢の世界の話なのだが、実はその夢は近未来であって、徐々に全体主義に覆われ、軍国主義に傾倒し、自由が奪われていく。クーパーと幸福な新婚生活を送っていた妻のベラは、そんな状況に必死に抵抗し、自由を求めて立ち向かうが、爆撃の犠牲になって、クーパーの腕のなかで息絶える──。

大量破壊兵器やファシズムの到来を予言したこのウェルズの作品は、今日なお予言的である。幸福な夢がいつの間にか恐るべき悪夢に変わっている、なんてことはあってはならないが、新型コロナウイルスのパンデミックと、それに対する各国の対応を見ても、「アルマゲドンの夢」はアクチュアルだ。「パンデミックのいま、やりたかった」という思いは、すべてのアーティストに共通しているに違いない。初演の直前に、候補者が時に民主主義を否定するような発言を繰り返すアメリカ大統領選が行われているのも、示唆的である。

藤倉の世界での活躍ぶりは、2015年初演の初のオペラはパリのシャンゼリゼ劇場、ローザンヌ劇場、リール歌劇場の共同委嘱で、3年後にはアウグスブルク劇場で新演出にて再演された、と書くだけで十分に伝わるだろう。その才能が、たとえば合唱に「電車を乗り降りする乗客や血に飢えた軍隊を想起する役を与えた」という「アルマゲドンの夢」。コロナ禍にもかかわらず、困難を乗り越えてアーティストが集まり、コロナ禍ならではのメッセージを発する。上演する側にとっても、観客にとっても、意義ある時間であろう。

「アルマゲドンの夢」告知
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PROFILE
香原斗志(かはら・とし)
オペラ評論家
イタリア・オペラなど声楽作品を中心にクラシック音楽全般について音楽専門誌や公演プログラム、研究紀要、CDのライナーノーツなどに原稿を執筆。著書に『イタリアを旅する会話』(三修社)、共著に『イタリア文化事典』(丸善出版)。新刊に「イタリア・オペラを疑え!」(アルテスパブリッシング)。毎日新聞クラシック・ナビに「イタリア・オペラの楽しみ」、La valse by ぶらあぼに「いま聴いておきたい歌手たち」連載中。日本の城にも造詣が深い。

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November 12, 2020 at 06:00AM
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